石川祐基さんに聞く、「駅名標」蒐集の楽しみ方。
鉄道好き、デザイン好きが高じて、駅の名前が書かれた看板“駅名標”に使われているフォントを収集するようになったという石川祐基さん。駅にある文字に焦点を当てて収集する「もじ鉄」という言葉の生みの親でもあります。
最初は身近なところから始まった活動も徐々に本格的になり、北海道から沖縄まで日本全国を網羅。全166社の駅名標や看板を撮り続け、これまで集めた数は3,000にものぼり、複数の著書を手がけるまでに。そんな石川さんに、駅の中にある「もじ」を追いかけ、写真を集めることの魅力について話を聞きました。
写真に撮って集めていくと、法則性が見えてくる
――看板や駅名標を集めるようになったきっかけを教えてください。
石川祐基さん(以下、石川さん):一時期、駅でバイトをしていたことがあったのですが、目の前の駅名標と同じようなデザインなのに隣の駅のものと若干文字の雰囲気が違うとふと思って。よく見るとデザインは一緒だけどフォントが違うんだとわかって、「なんでこんなことに!?」と。どんなフォントが使われているのか調べ始めたら興味が湧いて、看板や駅名標を撮って集めるようになりました。
もともとデザインが好きだったので、写真に撮って集めていくと鉄道会社ごとの法則性が見えてきたり、「これはミスかも?」という発見があったりして、さらにハマりました。
思わず撮りたくなるのは、わずかな間しか見られない貴重な光景
――特に惹かれる駅名標はありますか?
石川さん:そのタイミングでしか出会えないものに惹かれます。例えば、「金沢文庫」の写真、2つの駅名標が見えていると思いますが、手前が新しい看板で奥が古いものなんです。看板の交換のタイミングで、こういうふうに新旧2つの看板が一緒に見られることがあるんですね。そろそろ変わりそうだなという情報を入手したら、そこから足繁く通い続けて交換のタイミングを待つんです。看板の交換は十数年に1回あるかないかですし、事前に告知されるわけではないので、こういう光景に立ち会えると嬉しくなります。
また、銀座線神田駅は、2017年に駅のリニューアルのタイミングでホームの壁を剥がしたら、その向こうに昔の駅名標が出てきた。そういう驚くような光景がほんの一時期だけ見られました。こうしたものは撮らずにいられません。
石川さん:最近撮影したのは、都営三田線の御成門駅です。これまで6両編成だった都営三田線に、2022年5月から8両編成の車両が導入されることになって。ホームの端の方は閉鎖されていたのですが、8両編成になるにあたって開放された部分にあったのが、古いデザインの駅名標でした。都営三田線に乗っている時、窓から見えた看板が「あれ、何か違う?!」と気づき、一駅戻って撮影しました。
――シャッターチャンスを逃さないように常にカメラを携帯されているのでしょうか?
石川さん:そうですね。荷物にはなりますが、出かける時は必ず。後で撮りに来ようと思っても、撮りたい看板や駅名標がなくなっていたという失敗もあったので。撮り始めたころは、富士フイルムのミラーレスデジタルカメラ「X-Pro1」を気に入ってよく使っていました。形がかっこいいんですよね。その後、フルサイズで撮りたくなり、別の望遠カメラを持ち歩くようにもなったのですが、駅の中で大きいカメラを振り回すのが恥ずかしくなって(笑)。ちょうどそのころ、「X-T4」がで始めたので、動画も撮れるのもいいなと思って、そちらに乗り換えました。今、外出する時はポケットに忍ばせられるプレミアムコンパクト「X100V」と2台持ちです。
――これまで膨大な写真を撮ってこられたと思うのですが、データはどうやって管理していますか?
石川さん:SSDと写真整理アプリに鉄道会社ごとにフォルダ分けして入れています。撮り始めたころは毎日のように撮影して、iPhotoでデータを見返してニヤニヤしていました。もじが増えていくのが楽しくてしょうがなかったですね。
並べることでアートのような連続性が息づく
――蒐集することの魅力はなんでしょうか?
石川さん:写真に撮って集めて見比べることによって肉眼だと見逃していたことに気づくんです。たとえば、「羽田空港国際線ターミナル」の看板が「第1・第2ターミナル駅」に変わった時、最初は駅名が変わっただけだと思っていたんですが、写真を見比べるとなぜか文字の太さが微妙に違うと発見して。そういうのを見ながら「なんで変えたんだろう?」って考えるのが楽しいですね。
石川さん:近江鉄道の看板も撮った時は何も気にならなかったのですが、何度も見返すと、この水色のデザインは琵琶湖をトリミングしているデザインなのではないかと考えるようになったり。一瞬見ただけではわからない、いろんな発見があります。
あとは、連続性の美といいますか、同じ会社の駅名標がずらっと並んでいるとむちゃくちゃかっこいいなと思うんです。そういうのを眺めていると楽しいですね。
プリントすることで立体感が増し、インテリアとしても楽しめるように
――今回、駅名標の写真で、ハーフサイズプリントを体験していただきました。集めたものを写真という形にしてみて、どういったところに魅力を感じましたか?
石川さん:これまで写真をプリントするのは本にした時ぐらいで、PC上でデータを眺めていただけでした。今回、写真にしてみると奥行きがでるというか、立体感が出ていいなと改めて思いました。画面上で眺めているとどうしてもフラットな印象を受けるので。これくらいのサイズだったら小さな額に飾ってインテリアとして飾ってもいいですよね。大きい写真を額に入れて飾るとオタク感が出そうですが、このサイズ感なら空間の中でもすっと馴染みそうです。
――石川さん、ありがとうございました!
鉄道や駅という日常生活にあるもののなかにおもしろさを見出しながらも、日常を超えて、全国の鉄道を駆け巡るまで駅名標集めを極めた石川さん。集めた写真をプリントするのは初めての体験だったようですが、プリントしてみることでインテリアにもなるという、新たな一面を発見できたようです。
蒐集したものをプリントすることで⾒えてくる世界。みなさんも、体験してみませんか?
グラフィックデザイナー。デザイン急行株式会社・代表。1987年、東京都杉並区生まれ。東京工芸大学芸術学部中退。アニメーション・デザイン制作会社を経て、2017年、デザイン急行株式会社設立。日本グラフィックデザイン協会(JAGDA)会員。
Text:Mariko Uramoto
Edit:Shiori Akiyama(RIDE inc.)
2022.12.21公開
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