白馬の写真

那須の自然が生んだ、癒しの空間へ。大林直行が撮る「ディープでアートな写真旅」後編

旅の風景とともに、さまざまな土地のアートやランドスケープを写真家の視点で切り取ってゆく「ディープでアートな写真旅」。今回は写真家の大林直行さんに、栃木県にある美しいリゾート、那須を旅していただきました。那須高原を訪れた前編につづき、後編では広大な草原が広がる牧場「Nasu Farm Village」、そして那須芦野で産出された石を活用した「石の美術館」へと向かいます。

那須野ヶ原の丘陵が広がる、馬と自然のファームへ

「Nasu Farm Village」の草原

「Nasu Farm Village」は、16万坪(東京ドーム11個分)の草原が視界いっぱいに広がる、自然豊かなファーム。那須塩原駅から北へ30分ほど車で走ると、牧場やキャンプ場の点在する大田原市が見えてきます。敷地の中に入って車を停めると、美しく手入れされた広大な緑の丘がどこまでもつづき、その絵画のような景観は思わず言葉を失ってしまうほど。青空と草原がただそこにある、そんな素朴で贅沢なランドスケープは、自然を撮ることの楽しさを改めて感じさせてくれます。

「Nasu Farm Village」の並木道
ブルーベリーを実らせている枝

春には桜が満開になるという並木道を歩いていくと、奥にあったのはブルーベリーの木が集まった小さな農園。よく見てみると、薄い緑色がピンクに変わり、だんだんと赤くなり、そして紫色のブルーベリーへと熟していく様子がわかります。ここで毎朝摘み取っているたくさんのブルーベリーは、スムージーやジャムになりファーム内にあるレストランで楽しめるそう。

柵の中にいる白馬
白馬のうしろ足
白馬の目

「ずっと馬を撮ってみたかったんです」とうれしそうにシャッターを切っていた大林さん。自然そのものである動物の姿は、写真家にとって魅力的な被写体だといいます。
「僕は馬に乗りたいとは思わないんですけど、静かに佇んでいる様子がすごく心地よくて、撮りたいという気持ちは自然とわいてきます。これまでも野生の馬や牛を撮っている方の写真展などを見ていて、自分が撮ったらどうなるだろう? というのはよく想像していました。実際に撮ってみると、筋肉や背中のラインがすごくきれいで、造形美を感じますね。どこかこちらを見透かしているような目も、すごく印象的でした」

馬注意の看板

「Nasu Farm Village」は、乗馬しながらゆっくりと牧場内を歩くホーストレッキングコース、ブラシでのケアやエサをあげることのできるふれあい体験など、馬との時間を楽しめるファームヴィレッジ。そして、行き場を失った馬たちにセカンドライフを提供する場所として、保護馬活動をしている牧場でもあります。

馬の背中
うしろから撮影された白馬
那須野ヶ原の広大な丘で乗馬を体験している2名

秋になるにつれて緑から黄色へと変わっていく那須野ヶ原の広大な丘の風景は、大林さんの目にどう映ったのでしょうか。
「まだ行ったことはないですが、北海道の美瑛の風景を連想しました。すごく静かで、馬が佇んでいて、気持ちのいい空間。美瑛を撮っていた風景写真家の前田真三さんは僕の憧れでもあり、写真集もよく見ていたので、撮りながらその景色を思い出していました」

「丘のまち」として知られる北海道の美瑛町。その絶景を思わせるような那須野ヶ原の広大な風景を、写真で表現してくれた大林さん。何気なく撮ったように思えて、なだらかな丘陵の曲線や草原の色合いなど、バランスを考え抜かれた構図であることがわかります。また、馬の写真は背中のカーブや瞳などの細部にフォーカスしており、空間の広がりを表現した風景カットとの対比も魅力的。何を撮るときも、自分がもっとも「美しい」と感じる場所にピントを合わせること。そんな大林さんのスタイルが見えてくるようです。

石と水が巧みにデザインされた、建築のアート

「那須芦野・石の美術館 STONE PLAZA」の内観
「那須芦野・石の美術館 STONE PLAZA」の内観
「那須芦野・石の美術館 STONE PLAZA」の内観

最後に向かったのは、那須町の東にある芦野エリア。木材や石材の産地としても知られるこの場所で、古くから残る石蔵を再生させた「那須芦野・石の美術館 STONE PLAZA」を訪れました。古い町並みにとつぜん現れるアートピースのようなこの建築は、建築家・隈研吾さんがデザインを手がけた「石」のミュージアム。芦野石、白河石といった地域の石材を使ったアーティスティックな建築は、ここでしか見ることのできない美しい空間を生みだしています。

「那須芦野・石の美術館 STONE PLAZA」の内観

無垢の石材を薄くスライスして手作業で積み上げられた外壁、光が差し込むようデザインされた隙間。石という素材が持つ重さや冷たさのなかに、不思議な心地よさが満ちているこの場所には、石のパワーを感じにやってくる方も多いそう。ギャラリーや茶室、ショップや学習室などがあり、石についてさまざまな角度から学び、楽しむことができるようになっています。空襲を受けた穴をそのまま残している石蔵ギャラリーにはピアノが置かれ、コンサートホールに姿を変えることも。

「那須芦野・石の美術館 STONE PLAZA」の内観
「那須芦野・石の美術館 STONE PLAZA」の内観
「那須芦野・石の美術館 STONE PLAZA」の内観

コンクリートやモルタルとはまた違う「石」の質感を、大林さんはどのように捉えたのでしょうか。
「石の質感は、やっぱりコンクリートとはまったく違いますね。表面のざらつきや丸みなど、無機質になりすぎない自然の質感や色を感じました。水の反射もすごくきれいで、重厚感のある建築との対比が面白かったです。石の建築をどう撮るか、写真での切り取り方を見つけるのが難しかったんですが、自分なりに気になるポイントを拾って撮っていきました」

照明が抑えられた室内の撮影では、ときおり差し込む自然の光がとても美しく、その陰影によって空間が持つ魅力も変化していきます。その日の天気や時間によって変わっていく姿を捉えるのは、建築を撮影する醍醐味のひとつ。大林さんは、そのわずかな光の動きをじっくりと観察していました。また、水の揺らぎ、石の質感、植物などを印象的に写すことによって、無機質に思える建築の中にも“自然”の表情が見えてきます。水面やガラスの反射まで計算された繊細なアートのような石の建築を、大林さんらしく写してくれました。

那須へのショートトリップを終えて見えてきたのは、土地の歴史や環境を活かしながら、人の手によって新たなランドスケープがつくられているということ。大林直行さんの美しい写真とともに、自然とアートが混ざり合う姿を見つめる旅となりました。

みなさんもぜひ栃木県の那須へ、写真を撮る旅に出かけてみてはいかがでしょうか?

大林直行さんのプロフィール写真
写真家

大林直行さん

山口県出身。大学卒業後、アパレル、広告業を経て、2015年にデザイン制作会社専属フォトグラファーとして活動。2018年にフリーランスとして独立し、上京。2020年に写真集『おひか』を出版、2022年には企画展「私が撮りたかった女優展 vol.4」に参加。そのほか、広告・雑誌・WEBなど、さまざまな分野の撮影で活躍する。

Text:Mayu Sakazaki
Edit:Nanako Saito(RIDE inc.)

2022.10.19公開

旅の思い出をカタチに残そう

#風景の写真と。もっと。

「WALL DECOR ミュージアム」の商品画像

旅先での風景写真は、被写体としての美しさだけではなく、旅の思い出も蘇らせてくれます。そんな思い出のある写真たちをカタチにすることで、もっとその写真の魅力に気づけるはず。毎日目の届く場所に飾ったり、大切な方への贈りものにしてみては?

1:NASU FARM VILLAGEについて

那須野ヶ原に広がる大自然の中で、ホーストレッキングや馬とのふれあい体験が楽しめるファーム。畑で育てた野菜や、摘みたてのブルーベリーなどが楽しめるレストラン(現在はランチボックスのみ)、週末だけオープンするカフェも併設。ショップではドレッシング、ジャム、自家焙煎の珈琲ベース、マグカップやTシャツなどのお土産が購入できる。トラクターでファームを一周できるツアーや、ウェディングフォトの撮影など、さまざまな体験ができる場所として愛されている。
https://nasufarmvillage.com/

2:石の美術館 STONE PLAZAについて

栃木県特産の芦野石、福島県特産の白河石で構成された「石」の建築が楽しめるミュージアム。設計を建築家・隈研吾が担当し、2001年にはイタリアの国際石材建築大賞「International Stone Architecture Award」を受賞。館内には3つのギャラリーと、芦野石、天然石、関連書籍などが買えるショップ、茶室や学習室を併設。歴史ある石蔵の再生とともに、石と建築の新しい試みが反映された美術館として、国内外から人が集まっている。
http://www.stone-plaza.com/