透き通る青とあざやかな緑が身体中に満ちる、那須の旅
那須塩原駅からアートビオトープ那須までは、車で30分ほど。森林と川にかこまれた静かな別荘地でもある那須連山の麓へ、ときおり車を停めて写真を撮りながら、ゆっくりと向かっていきます。那須高原が近づくと緑がぐっと濃くなり、山々から吹く風が木々を揺らして、心地いい空気が流れていく。写真にも、その澄んだ空気が写っているかのようです。
建築の発想で生まれた、不思議で美しい「水庭」を歩く
アートビオトープ那須に到着してから最初に向かったのは、敷地内にある「水庭」。森林、水田、そして牧草地と、土地の歴史を重ね合わせて細やかに設計されたその庭園は、自然にとけこんだ建築のようなもの。樹木のすきまに点在する小さな池たちは、脇に流れる川とつながっており、循環したひとつの“環境”がそこに広がっています。
実際に水庭の中を歩いてみると、オタマジャクシや小さなカエル、青いトンボなどが飛び、まるで自然の水辺のよう。少し離れた木陰には、のんびりと休憩する猿の姿も見ることができます。この時期は水庭の真正面に夕陽が沈み、茜色からオレンジ、そして夜空へと変わっていく様子が楽しめるほか、夜の蛍や朝露もとても美しいそう。
建築家の石上純也さんが手がけたこのランドスケープは、被写体としても魅力的だと大林さんは言います。
「木の高さや間隔、池の形まで考えて設計されているので、360度どこを切り取っても絵になる空間。水面に樹木が反射してとても綺麗なので、小雨が降る様子や雨上がりの風景も見てみたくなりました。人が作っているけれど、人工的な雰囲気ではなくて、自然にできたような環境になっているのがおもしろいです」
大林さんがそう話すように、“どこを撮っても絵になる空間”だからこそ、自分なりの視点を見つけることが撮影のポイント。写真を見ていると、大林さんは水面に反射する木々の表情や、美しい曲線を描く池のかたち、植物のディティールなどにフォーカスしているのがわかります。構図のバランスを意識しながらも、まずは自分の目で全体をよく観察すること、場所が持つ空気感そのものを捉えることを大切にしている姿が印象的でした。
川辺にたたずむ、土と水のポタリー・スタジオ
水庭での撮影を終えたあとは、アートビオトープ那須の施設内にある陶芸スタジオへ。講師をつとめる陶芸作家さんの作品も並ぶその部屋は、土と水の匂いがする静かな場所。電動ろくろ、手びねり、絵付け、七宝焼など、好みの難易度に合わせたワークショップを体験することができます。ガラススタジオやインディゴ染めのスタジオもあり、長期滞在しながら制作を楽しむ人も。
わずかな光のなかで際立つ「陰影」を意識的に写すのは、大林さんの写真の特徴のひとつ。そうすることで、部屋に置かれた器や家具のフォルムが優しく浮かび上がり、空間に満ちる静けさが伝わってきます。また、対象に思いきり寄ったり、あえてぼかしたりすることで、抽象画のような雰囲気をつくっている一枚も大林さんらしい表現です。
「森林にかこまれているので、施設内のどこからでも緑が見える。それだけでも、気持ちが癒されます」と大林さん。陶芸スタジオの横には川が流れているため、窓からその風景を眺め、水の音を聴きながら制作に没頭することができます。
スタジオを出て沢まで降りていくと、森林が陽の光をさえぎり、冷たい水が流れることで、ひんやりとした空気に。沢の緑はより多くの光を取り入れるために、色素がどんどん濃くなっていくそう。
「川のせせらぎの音が涼しいですね」とつぶやきながら撮影していた大林さん。その感覚を反映するように水の表情をとらえた写真を見ていると、本当に川の流れる音が聞こえてくるような気がします。シャッタースピードを調整しながら渓流の動きを捉えていくことで、ドラマティックな光景を切り取ってくれました。
水のある風景が多く写真に残った、那須へのショートトリップ。大林直行さんとともにアートとランドスケープをめぐる写真旅は、まだまだ続きます。広大な牧場と馬、そして石と建築の美術館へと向かう後編記事をお楽しみに。
山口県出身。大学卒業後、アパレル、広告業を経て、2015年にデザイン制作会社専属フォトグラファーとして活動。2018年にフリーランスとして独立し、上京。2020年に写真集『おひか』を出版、2022年には企画展「私が撮りたかった女優展 vol.4」に参加。そのほか、広告・雑誌・WEBなど、さまざまな分野の撮影で活躍する。
Text:Mayu Sakazaki
Edit:Saito Nanako(RIDE inc.)
2022.10.05公開
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アートビオトープ那須について
陶芸スタジオとガラススタジオ、ギャラリー&カフェを併設したレジデンスエリアと、全14棟15室のスイートヴィラ、レストラン、そして水庭からなるカルチャーリゾート。アートビオトープ那須の施設内には書籍がいたるところに置かれており、滞在しながら読書や制作を楽しむことができる。また、国内外のアーティストの滞在制作を支援する「アーティスト・イン・レジデンス」を2009年から実施。ゆっくりと休むだけじゃなく、何かを学び、作りたくなる場所として人が集まっている。
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