辰巳雄基さんに聞く、石ころ蒐集の楽しみ方。

辰巳雄基さんは、日常にある身近なものに注目し、蒐集することで新しい楽しさやひらめきを見せてくれる、言わば蒐集のプロ。その活動は多岐に渡り、飲食店のテーブルに残された個性的なかたちに折られている箸袋や、畑の片隅にある“農機具小屋”に着目。書籍や展覧会で、そのコレクションを発表されています。
そんな辰巳さんのバラエティ豊かな蒐集活動の中でも、今回注目したのは「石ころ」蒐集。2022年7月には自身のコレクションを発表する展覧会も開催したという「石ころ」を集める魅力について、いろいろと聞いてみました。

――まずは、石ころを集め始めたきっかけを教えてください。
辰巳雄基さん(以下、辰巳さん):10年前に3年間ほど、島根県にある隠岐諸島の海士町というところに住んでいました。コンビニもなければ娯楽施設もない、人口も2,300人くらいのところです。そこで、楽しみを見つけるにはどうしたらいいのかと考えているなかで、海へ遊びに行くことが楽しくなって。その時に、流れ着く漂流物や、石ころを集め出しました。
そのうち、何かを拾っては「これは、いつ頃のものなんだろう?」「どこから来たのだろう?」と思いを馳せたりすることが多くなりました。雑貨屋もなかったので、インテリアは海辺に拾いに行くみたいなものでしたね。「この棒はどこに使える?この石ころは置物になる?」といった感じで。
旅先で味わうのはカフェのコーヒーではなく、その土地の“かけら”。
――それからは、石ころをどうやって集めているのでしょうか?

辰巳さん:普段は、旅のついでや小屋探し、遊びなど、何か他の目的があって訪れた場所で、「ここにはどんな石があるんだろう?」と海や川へ行ってみることが多いです。旅行に出掛けたらカフェでコーヒーを味わうのではなくて、川へ行ってその地域のかけらを見に行って、その地域がどんなものでできているのか知ることで、その土地を味わうようなものですかね。自然物を見て、その土地に触れるのは楽しいです。
いざ行こうと思っていく場所はそんなに多くありませんが、例えば石拾いの聖地といわれている青森・津軽地方にある海岸や、“石ころ界”では有名な新潟のヒスイ海岸、そういうところは興味本位で行ってみました。でも、特にめずらしい石を拾いに行きたいというわけではないので、どこかを目指してわざわざ拾いに行くことはあまりないですね。
常に想像を超えてくる魅力的な石ころと、「どんどん目が合っていく」。
――辰巳さんが「石ころ」を集める時、何をポイントに拾っているのでしょうか?

辰巳さん:いろいろありますが、一つは、何かの形をしているものですね。猫の形や、人の顔の形をしているもの。あとは、刺激的な模様をしているものとか、文字が書かれているように見えるものとか。




辰巳さん:その模様があると思って探していないので、常に想像を超えられるんですよ。「あ、こんなものまであるのか!」みたいな。「自然にこんな形になるんだ」「どんな過程を経たらこんな形になるんだろう」と想像しながら拾っていくと、どんどん目があっていくというか。ビビッときて、石を拾うたびに、「これはすごい!かっこいい!」という発見がありますね。

辰巳さん:拾いながら歩いていると、頭のなかで物語がどんどん発展していくのもおもしろいです。例えば、帽子の石を見つけたら、今度は顔の石があったとか。帽子と顔のストーリーが自然と頭の中で繋がっていって、石を見ながらくるくる回転している感じですね。でも、その日の気分で全然拾えない時もありますけどね。
――集めた「石ころ」は、どのように管理したり、楽しんだりしているのでしょうか?
辰巳さん:ホームセンターにあるような工具用の箱に収納したり、段ボールに入れて地域や川の名前を書いておいたりしています。薄い石や丸い石だけで箱を作ったりもしていますね。薄い石も、特別薄い石と、薄いけど二軍の石で分けたり、サイズで分けたりもしています。
どの石も思い出と共にあるので、見れば大体は思い出すのですが、ある程度集まってくると記憶が追いつかない時もあるので、そのように分けて管理し始めました。箱に分類してしまっているものもあれば、玄関や部屋の片隅など、常に目に入るところに飾っているものもあります。友人が来て石の話になれば、おもしろい石を拾ったよと、奥から出してきたりもします。

集めたものはハーフサイズプリントに。石ころの魅力を、もっと共有しやすく。

――今回、石ころのお写真で、トレーディングカードと同じ大きさの「ハーフサイズプリント」を体験していただきましたが、いかがでしたか?
辰巳さん:まず写真の物としてのサイズ感や質感がとてもいいです。いつも携帯の中に写真データや文字情報を保存していますが、写真プリントにすることで、手に取りながら見返せる嬉しさがあります。石に採取場所や記録を書く人たちもいますが、私はそうはしたくないんです。マスキングテープを貼ったりしても石にテープの跡がついたりするので、プリントするのはとてもいい記録方法だと思いました。

辰巳さん:写真の裏にも情報が書き込めるので、ついつい忘れがちな情報を書き留めることができて、心地よくコレクションできるようになりました。石は重いし、かさばるでしょ。友人に見せる時もこれがあれば、どこでこの石を見つけたかなど、重い収納ケースを持って行かなくても、まずはこの写真で手軽に情報交換ができるのも、とってもうれしいです。
蒐集する魅力とは?「自分で見るもの楽しいし、人と共有しても楽しい。」
――最後に、辰巳さんにとって集めることの魅力を教えてください。

辰巳さん:魅力はたくさんあるんですが、一つは、自分のなかでの分類や整理が楽しいということですかね。集めることで、一つだけではわからない特徴に気づくことができたり、自分が拾いがちな石の傾向がわかったりします。それも時代と共に変化したりね。

辰巳さん:もう一つは、いろんな石を集めることで、他者と共有したときに話の種になることですかね。今回の展示でも、見に来てくださった方との会話で、「滋賀出身なんですけど、滋賀の石ありますか?」「こんなんでしたよ」「こんな石が拾えるんですか?!」という話から、人の思い出に触れるきっかけになったり。
誰しもどこかにフックがあって、そこに引っかかって会話が生まれます。そんな、石を介したコミュニケーションは楽しいですね。石は自然のもので、自分が作ったものではないので、自分も含めてみんながフラットに「すごいよな〜」と褒めあえるのも良いのかもしれません。
自分で見るもの楽しいし、人と共有しても楽しい。それで集めているという感じですね。でも、もしまた次、石の展示をするとしたら、10年後くらいかなと思っています。
――辰巳さん、ありがとうございました!
身近なものに魅力を見出すことから始まり、いろんな土地へ足を運ぶたび、石ころ拾いを楽しむように。そして、それを普段の会話や展覧会などで共有してコミュニケーションのきっかけにするという広がりは、聞いている私たちもワクワクしてきます。ハーフサイズプリントでコレクションを共有しやすくなったという辰巳さん。これからも、蒐集することが生み出す楽しさが、どんどん広がっていきそうですね。
蒐集することで⾒えてくる世界。みなさんも、体験してみませんか?

1990年奈良県生まれ。京都造形芸術大学(現:京都芸術大学)卒業後、島根の離島海士町で集落支援員として働き、その後日本全国を旅する。福祉施設で働くことをきっかけに亀岡に移住。農小屋学会、遊びと読書と手づくりを提案する山成研究所主宰、一般社団法人 きりぶえ理事、かめおか霧の芸術祭プロジェクトディレクター。
日本全国の飲食店から集めたもので「ジャパニーズチップ展―テーブルの上で見つけた日本人のカタチ」や、漂流物の即売会「たつみの海でひろってきたもの店(展)」、路上から集めたもので「star dust」、海や川から拾ったもので「石と網」など蒐集やリサーチでの発見をもとに展覧会を行う。
著書に『箸袋でジャパニーズ・チップ!テーブルのうえで見つけたいろんな形』(リトルモア)共著に『小屋の本 霧のまち亀岡からみる風景』(きりぶえ)がある。
Text&Edit:Shiori Akiyama(RIDE MEDIA&DESIGN inc.)
2022.09.28公開
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